バク．ミゲル

変わった鼻を持つバク。予告もせず勝手に催眠を仕掛けようとする厄介なヤツ。その催眠はなぜかこちらには効かなかったが、「スーパードリーマー」という特殊体質のおかげか、彼の技量が足りないせいかは分からない。何れにせよ、コイツからは距離をおいたほうがいいだろう…

ミゲルはもともと犯罪心理学を専門とする、有名なサイコロジストだった。精神障害を持つ犯罪者の治療を依頼されることも多かったミゲルが一番得意とする治療法は催眠だ。彼の催眠を受けると、ほとんどの犯罪者は正常に戻り、治癒のできない者でも症状を和らげることができた。

そんなミゲルは自分の理論を完璧だと思い込んでいたが、ひとりの妙な患者が現れた。その患者は精神状態があまりにも錯乱していただけでなく、あらゆる催眠法も機能しなかった。資料を調べた後、ミゲルはこの患者をごくまれに現れる「スーパードリーマー」だと結論づけた。そういう体質を持つ患者は夢と現実を混同しやすく、そして決して催眠には掛からない。

この結論はミゲルの催眠療法に「死刑判決」を下したようなもので、ライバルの学者たちもこの機に乗じて彼をこき下ろした。学術界での権威をどうしても手放したくなかったミゲルは、ついに危険な賭けに出た。すなわち、心理学の墓場と呼ばれた「共感療法」の改良だ。

「共感療法」とは患者の言動を真似ることで、内から外までその精神世界を感知することによって、不調の原因を見つけ治療を行うアプローチだ。ただ、自分の催眠療法が「スーパードリーマー」に打ち勝てることを証明するため、ミゲルはそこからもう一歩進んで、患者の心理状態を真似た後、鏡に向かって自分に催眠を施すという手順を加えることにした。「表面意識が休眠状態に入れば、潜在意識は妨害を受けずに患者の精神世界を真似できるはず」というのがミゲルが提唱した理論だ。ミゲルはこれを「逆催眠」と命名した。

新療法に対する自信を示すため、ミゲルは多くの専門家たちを招き、その治療過程を見学させた。真似て、催眠をかけ、そして感じる。ミゲルは「逆催眠」を通じて、患者の精神世界に入ることに成功した…

「そこは秩序のあるカオス空間だった。破壊衝動の目的は全てを本源へ戻すことであり、そこには激しい静けさがあった」目覚めたミゲルは、興奮した様子で自分の体験を語り始めたが、周りを見ると皆の表情は一様に驚きと恐怖に染まっていた…我に返ると、ミゲルは病状を記録するために使っていたペンを固く握りしめ、そのペン先を患者の眼窩に深く突き刺さしていたのだ！この精神同調は明らかに成功だった。ただ少し、成功し「過ぎ」てしまった。

患者を故意に殺害した罪で、ミゲルはこの刑務所に送られた。ミゲルは服役中にヤギのウィルバーと知り合い、そのオカルト理論から多くの啓発を受けた。あの「カオス空間」についても少しずつ分かるようになった。あの患者が勝者のような笑みを湛えながら死んでいった理由も…