ブサイクだけど、自信に満ち溢れたイボイノシシ。彼自身によれば、刑務所のような弱肉強食の世界では、凶悪な顔を持って生まれたことはアドバンテージになるらしい。それから、自分のことを醜いと感じるのは、この顔の良さが分からないからだそうだ。イボイノシシ族の中では、この顔は百年にひとりのイケメンだという。それについては、さすがに疑念を抱かずにはいられない…
刑務所に入る前、ハクラは都市の建物解体チームに所属し、上の指示通りに「邪魔なスラム街」を解体させるのが仕事だった。評判のいい仕事ではないが、生活が掛かっているため、他者に同情などしてはいられなかった。
仕事のない間、ハクラが一番好きなのは女とギャンブルだった。もっとも、ギャンブルをするのは女のためである場合もある。なぜならハクラの安月給では、女をベッドまで誘うのは無理だからだ。その夜は運が悪く、またしてもバーのカードゲームで有り金全部スッてしまった。近ごろファーストフード店で働く女性店員といい具合になっているから、ギャンブルで稼いだ金でプレゼントでも送って、そのままベッドにもつれ込もうと思ったのに、これでは計画がパーだ。
ハクラがバーの裏通りでこのくそったれな生活に毒を吐いていると、ある小さな影が追いついてきた。やってきたのはミーアキャットのテディ(テディも今この刑務所にいる)だった。テディもあのバーの常連客のひとりだったが、ギャンブルには一切参加せず、ハクラとカウンターで何度か一緒に飲んだくらいだ。有り金を全部スッてしまったハクラに、テディはある「大逆転」の計画を持ちかけた。
テディは元地下鉄エンジニアだ。「元」というのは、ついこの間クビになったからだ。詳しい事情は別の話で語ることになるが、とにかく自分たちの「不幸」属性を利用して、それぞれが抱える厄介事を解決するために大勝負に出ようと提案してきた。そしてその大勝負とは、都市中央銀行の地下金庫へ強盗に入ることだった!
地下鉄部門で働いていたテディは、廃案された非公開の地下鉄設計図を見たことがあった。そこには開通してから一度も使用されたことのない緊急避難路が描かれていた。しかもその避難路はちょうど地下金庫の真下を通っており、間の距離は10メールにも満たないという。ハクラが建物解体用の爆薬と切断器具さえ「拝借」してくれば、金庫に入っている巨額の現金を山分けできるという寸法だ。
「女のいないベッドで寝るのも、ムショに入るのも似たようなもんだ!」自分の現状を鑑みて、ハクラは迷わずに了承した…
決行時間はテディの提案で大晦日の夜に決まった。新年を祝う街の歓声と、空中で爆ぜる花火の音が、地下の掘削音を隠してくれた。翌朝、二日酔いの警備員はようやく金庫に入っていた100万ドルの現金が「卸され」ていたことに気付いた。
では、ふたりはどうして捕まったっだろうか。ハクラによると、「全部テディのせいだ!」という。テディの躁病がぶり返したせいで、寝ている時まで口を閉じなかったようだ。その寝言を聞いた守銭奴の妻が事情を察し、情夫とともにテディの金をわが物にしようとした。結局騒ぎが大きくなって、その妻と情夫は死に、金庫強盗事件案の真相も明るみに出ることとなり、ハクラもとんだ「とばっちり」を受けることになった。