手先が器用なアライグマ。目の前でマジックのようなカードすり替えショーを披露して見せてくれた。彼の話によれば、この技はルームメイトであるウサギのホワイトから教わったそうだ。聞けば、この技を覚えたのはただ女の子にモテたいからではなく、刑務所のカードゲームでイカサマをするためだという。その自信満々な態度を見る限り、かなりギャンブル慣れしているようだ。
ヌードルというのはあだ名で、本名は彼自身にも分からない。なぜなら彼はカジノに捨てられた孤児であり、女子トイレで清掃スタッフに見つけられた時、彼の隣には半分しか残っていないカップ麺が置いてあるだけだったからだ。
ヌードルはチップの音を聞きながら育った。ギャンブラーの喜怒哀楽も、テーブルの下で交わされる汚い応酬も彼には見慣れたものだった。だから彼は幼い頃からイカサマこそがギャンブルの極意だと悟った。運任せではゼニを失うだけ、勝ち続けたければ「技術」だけが頼りだ。
普段から慣れ親しんできたため、ヌードルは少年時代から優れたギャンブル技術を持っていた。すり替えも目くらましも、彼にとっては朝飯前だった。ついにある日、ヌードルはカジノで長年バイトして貯めてきた2000ドルを使って、スキッドロードの闇カードゲームへの入場チケットを買った。そして一晩で所持金を5倍に増やした。
それからの数年間、スキッドロードからリバーサイド、リバーサイドからノースポイントまで、ヌードルは市内のありとあらゆる闇カジノを制覇した。ギャンブルで稼いだ金で高級マンションを購入したヌードルは、ついに20年にもわたるカジノでの借りぐらしに終止符を打った。
だが、新居の家具も揃わぬうちに、ヌードルの元に招かれざる客が現れた。国際警察であるタヌキのブライアンは、しばらく前からヌードルを尾行しており、彼が違法ギャンブルに参加した証拠を握っているという。だが今回訪ねてきたのは彼を逮捕するためではなく、取引を持ちかけるためだそうだ…
ブライアンが言うには、彼のチームはこのごろ大規模な越境マネーロンダリングを調査しているそうだ。そしてその犯罪組織のボス、ヒグマのアンドレはギャンブル好きで、よく自分が所有するホテルでカードゲームを主催しているらしい。ブライアンはギャンブルの達人に潜入させ、アンドレが持っている現金を全て勝ち取って、ロンダリング前のブラックマネーを使わせる計画を立てていた。
危険な賭けだと分かっていても、弱みを握られたヌードルには選択肢がなかった。幸い、計画は順調に進み、肝心な勝負ではヌードルの「技術」のお陰でなんとかアンドレを打ち負かすことができた。ブラックマネーを手にホテルを出たヌードルは、公衆電話でブライアンに報告すると、証拠のキャッシュケースをブラックウォーター造船所まで持ってくるように指示された。
ブラックウォーター造船所はノースポイントにある廃棄された造船所で、かつてはギャングの秘密取引の場所として使用されていたが、確かに人目を引かない恰好な場所ではある。だが、ヌードルが到着すると、そこで待っていたのはブライアンだけで、他のチームメンバーはひとりもいなかった。ヌードルが指示通りにキャッシュケースを差し出すと、ブライアンのやつはなんと銃口を向けてきたのだ!
全てブライアンの計画のうちだった。退職前に一山当てようとしたブライアンにとって、このギャンブル作戦は恰好な機会を提供してくれた。ここでヌードルさえ消えれば、彼が現金を持ち逃げしたように偽装し、この金を自分のものにできた。
だが、カードゲームではAAが必ずしも27に勝てるとは限らないように、自分を過信していたブライアンは相手を過小評価してしまっていた。カジノで育ったヌードルは、手先の器用さだけでなく、優れた観察眼も持っていた。ブライアンが訪ねてきた時から、ヌードルはその隠しきれないほどのギャンブラーとしての欲深さに気付いていたのだ!だから、待ち合わせ場所をブラックウォーター造船所に指定された時から、用心深いヌードルは保険を掛けておいた。ここで違法取引が行われると、地元の警察に通報したのである。万が一勘違いしていたとしても、国際警察のブライアンが説明すれば済むだろう。だが、もし自分の考えが正しければ、これは命の保険になる…
ヌードルは今回も「賭け」に勝ったようだ。ブライアンが引き金に指を掛けようとした瞬間、草むらに隠れていた地元の警察たちは一気に飛び出し、彼を逮捕した。だが残念なことに、ブライアンが逮捕されたことで、彼とヌードルの「取引」も無効になってしまった。そのためヌードルは結局違法ギャンブルのせいで牢屋に入れられてしまったが、それでも頭を撃ち抜かれるよりは断然マシだろう。