赤い目と緑の肌を持つアマガエル。刑務所唯一の両生動物として、大変目立つ外見をしている。近づこうとすると激しく拒絶されてしまった。説明を聞いてみると、彼の体には猛毒があるため、「うっかり」誰かを傷つけないための措置らしい。もしかしたらこの「毒々しい外見」をしたアマガエルこそが、この刑務所での数少ない良いヤツなのかもしれない。
グレイは刑務所に入る前、医薬品のセールスマンをしていた。その外見のせいか、グレイは上司に疎まれ、スキッドロードに配属されてしまった。セールスマンにとってスキッドロードへの配属は悪夢のようなものだ。なぜなら彼がいた会社は高価な薬品ばかり扱っており、とてもスキッドロードに住む貧困者が負担できるようなものではなかったからだ。
業績が上がらないため、グレイの収入は理不尽なほど低かった。子供がもうすぐ生まれるのに、オタマジャクシの孵化室を借りる金もないような有様だった。家のバスタブで子供を育てないといけないかと思うと、グレイは激しい焦燥感を覚えた。
生計に迫られたグレイはいっそう仕事に打ち込むようになり、スキッドロードにあるギャングの縄張りにまで売り込みに行った。グレイが医薬品のセールスマンだと聞くと、ギャングの一員は彼をある秘密の建物に連れて行った。
中にはぼろぼろなベッドが並べられ、意識不明の患者が大勢そこに横たわっていた。医者だと名乗る者の説明によれば、高価な医薬品を買う金のないスキッドロードの貧困者たちは、具合が悪くなるとここに安い麻酔薬を注射しに来るという。だが麻酔薬というのは諸刃の剣であり、容態の悪化を速める副作用があるのだ。だがそれ以外に、どんな方法があるのだろうか?
医者はさらに説明を続けた。実は海外では安い後発医薬品が流通しており、本物に近い効果を持ちながら、その値段はたった10分の1だそうだ。このあたりの貧困者も昔はその後発医薬品を使っていたが、2年前に医薬品のブラックマーケットが警察に潰されたため、入手困難になってしまった。そして、グレイならこの問題を解決できるかもしれないと言う。医薬品のセールスマンであるグレイなら、比較的安全に後発医薬品を密輸できるのだ。
「後発医薬品は値段こそ安いが、スキッドロードでの需要は大きいから、いい商売になるはずだ」と、医者は説得した。違法なのはグレイだって分かっている。だがオタマジャクシ孵化室のレンタル料を考えて、グレイはひとまず了承することにした。
まもなく、最初の後発医薬品が届いた。その値段の安さを見て、スキッドロードの住民たちが思わず涙を流すほどだった。そして、グレイが仕入れた後発医薬品は、当日のうちに完売してしまい、あの医者の言った通りいい商売になった。それからの数ヶ月間、グレイの取引量はどんどん大きくなっていった。様々な後発医薬品が毎週のようにスキッドロードにもたらされ、それを買い求める患者たちで長蛇の列ができるほどだった。
オタマジャクシの孵化室に、大きなマンション、そして新しい自動車。この商売のお陰で、グレイは望み通り大儲けすることができた。だが、グレイは強欲なやつではなかったし、リスクが高いことも知っていた。各方面から疑われ始めた今、そろそろ手を引かないと捕まってしまうかもしれない。そこでグレイは医者を訪ね、自分はもう降りると伝えた。まだオタマジャクシの子供たちに、父親を失わせたくないからと。
医者はグレイの決断に理解を示したが、それでも最後にもう一度だけやってほしいと頼んだ。グレイがもたらしてくれた後発医薬品のお陰で容態が安定している患者も多いが、今薬が切れたら全て台無しになってしまう。今度だけ多めに買い溜めしておけば、その間にグレイの代わりを探すこともできるから、と。
医者の言葉に説得されたのか、グレイは「最後にもう一度だけ」やることにした。しかし、彼自身も予感していた通り、今回は税関の目を欺けなかった。目の前で医薬品を没収されそうになったグレイは、誰もが予想できなかった行動に出た。彼はあろうことか税関にいた警察に麻痺毒をぶっかけ、医薬品を持ち逃げしたのだ…
医薬品を奪い返したグレイは、まっすぐスキッドロードへ向かい、それを医者に渡した。警察への暴力行為が何を意味するかを知らなかったわけではないが、この医薬品が患者たちにとってどれほど大事なのかも知っていた。「あれだけ儲からせてもらったんだ。これは最後の餞別ということにしておくよ」これが、自首しに行く直前にグレイが医者に残した最後の言葉だった。