被害妄想に陥っているセンザンコウ。証拠もなしに自分のウロコを狙っていると、疑ってきた。話を聞いてみると、あるウロコにまつわる噂のせいで、刑務所で尻尾を切り落とされかけたらしい。愚かさと貪欲さは、2本の刃のようにその頭上高くに吊るされ、一時の油断も許されないのだ。
リンは鉱夫という、センザンコウにとって最も一般的な職業についていた。まだ若かった彼は、すでに10年以上も鉱山で暮らしており、退屈な発掘作業にも早くからうんざりしていた。リンの夢はセンザンコウの唐と同じアクションスターになることだった。だが、そのためにはたくさんお金が必要で、自分の安月給ではとても無理だと、彼自身も分かっていた。
リンが最後にいた鉱山は、北方の国境にあるツインピークスだった。サウスピークは自由動物連邦にあり、ノースピークはアズカト共和国の国境内にあった。アズカト共和国は動物連邦ほど裕福ではないため、自由動物連邦が大金を掛けてツインピークスの尾根に壁を造るまで、ここは不法入国の多発地帯となっていた。
あるいつもと変わらない休みの日に、リンはいつものように麓の町にあるバーで息抜きをしていた。ボックス席の誰かが1杯おごりたいというバーテンの言葉を聞いても、誰かに狙われるような金も体も持ってないから平気だと思ったリンは快く了承した。仄暗いボックス席に入ると、サングラスを掛けたコブラが要件を切り出した。アズカトの商人だというその男は、関税が上がったことで赤字を出してしまったらしい。ある筋からリンが金を必要としていると知り、取引をしたいそうだ。その内容とは、鉱山の中に密輸に使える秘密の通路を作ることだった。「シュー…アズカトには安い食料と医薬品が必要だ。これも人助けなのだよ」コブラはそう囁いた。
「鉱山の中の坑道は迷路のように複雑に絡み合ってる。鉱夫でもなければ出入り口を見つけられるはずがない」だからリスクは高くないと、リンは思った。それにリンはどうしても早く鉱山から離れ、きらびやかな都会に行きたかった。だから数日後、リンはこの「人助け」に了承した。
リンの仕事は早かった。一ヶ月も経たないうちに、廃棄された坑道を利用した、サウスピークとノースピークを繋ぐ通路が開通した。そして金を受け取ったリンは、打ち合わせ通り「迷路」の地図をあのコブラに渡した。
大金を受け取ったリンは、あれほど遠かった夢がすぐ目の前にあるかのように思えて、大いに興奮した。そして現場監督に辞表を出し、一ヶ月後には砂と土に永遠におさらばできるようになった。引き継ぎを待っている間、リンは度々あの坑道の様子を覗きに行った。最初はコブラが言ったとおり、知らないやつらが箱に入った荷物を担ぎ、サウスピークからノースピークへ運ぶのが見えた。けど時間が経つにつれ、様子が変わってきた。ノースピークからサウスピークへ変わった「荷物」を運ぶ、他のやつらが現れるようになったのだ。その「荷物」というのは若い娘で、中には手足を縛られ、傷だらけの者もいた…
その意味も分からないほど、リンもバカではない。あのコブラが言っていた密輸業務は、この坑道にとっては副業でしかなかったのだ。その本業はアズカトからの女の子を動物連邦へと運ぶことで、売られた女の子たちの運命は簡単に想像が付く。リンはコブラになぜ騙したのかと問い詰めたが、帰ってきたのは嘲りと脅しの言葉だけだった。
自分が欲をかいたせいで悪魔の所業に手を貸してしまったと知り、リンは夜も眠れぬほど自責の念に苛まれた。通帳の残高を見るたびに、女の子たちの不安に満ちた目が脳裏に浮かぶ。「俺は唐のようなヒーローになりたかったのに、なんでこんな…クソッ!」そう言いながら、リンはうなだれた。結局、彼は罪悪感に耐えられずに警察に自首し、その地獄の坑道のことを白状した。
警察はすぐさま坑道を閉鎖し、そして手がかりをたどってさらわれた女の子たちを救出した。リンも自身の違法行為の代価として、自由を失ってしまったが、少なくとも安心して眠れるようにはなった(多分)。