バビルサ?という珍しい種族の生まれで、イノシシと勘違いされたせいでひどくご立腹のようだ。誇りある種族のシンボルだという、頬を突き破るほどの恐ろしい牙を持っている。彼が言うには、牙が生えてくる過程には大変な苦痛が伴うが、この牙は漢の証でもある。この苦痛から逃れようとするような臆病者は、同族の娘たちのハートを射止めることなどできない。
リチャードは小さな銃器屋を経営していた。しかし高額なテナント料と一向に増えない売上に迫られ、裏では違法改造の依頼も受けていた。
バビルサの数が少ないせいか、リチャードの恋は遅咲きだった。妻との結婚後、リチャードには娘が出来た。サラが生まれたことで、灰色だったリチャードの生活が一気に明るくなった。生活がどんなに厳しくても、家に戻りこの小さな天使の顔を見れば、一瞬で癒やされてしまう。
しかし、そんなリチャードの幸せは1枚の健康診断書によって打ち砕かれた。「豚血症」、それがサラの病名だった。とても珍しい病気で、医者の話によると、この病気の治癒には肝臓移植が必要だ。だが残念なことに、サラの両親であるリチャードと妻は、適合検査に合格できなかった。こうなったらもう、外部のドナーが現れるのを祈るしかない。
長く苦しい待つだけの日々が始まった。サラの容態を安定させるため、リチャードの貯金はとっくに底をついていた。1年後、ようやく待ち望んだドナーが現れた。交通事故で亡くなった雄のバビルサは、幸いなことに肝臓が無事だった。「ハニー、苦難の日々はやっと終わるんだ」リチャードはそう言って、涙あふれる妻をキツく抱きしめた。
知らせを受けた翌日、スーツをきっちりと着こなした者がリチャードの前に現れた。「ホップス医学研究所」の代表だというその男が言うには、サラに移植される予定のその肝臓から、とても珍しい肝炎の抗体が見つかったそうだ。研究所では関連薬物の研究を進めており、その肝臓さえあれば薬物の開発が大きく進むだろう。その肝臓を譲るだけで、無数の命が救えるのだと。むろん、新たなドナーが現れるまで、サラの今後の医療費も全て負担すると約束した。
「悪いけど、断らせてもらう。これ以上サラが苦しむのを見たくないんだ。それにお前だって知ってるはずだ、次のドナーはもう現れないかもしれないと」そう答えたリチャードの言葉を聞いて、スーツの男は何も言わずに去っていった。
数日後、病院からの知らせが届いたが、その内容は手術の日程ではなく、ドナー移転の説明だった。「限られた資源は最大多数のために役立てるべきだ」という理由で、市長がこの手術に干渉したのだ。そんな現実に押しつぶされたリチャードは、実力行使を決意した!リチャードは日を跨がずに、改造した武器を手に「ホップス医学研究所」に夜襲を掛けた。そして、研究所の上級研究員を拉致し、サラから「奪った」肝臓のドナーを返すよう要求した。
結果、サラの手術は無事行われた。娘の無事を知ると、リチャードは研究員らを解放し、警察に自首した…
「すべてサラのためだ。俺はどこまでも自分勝手な父親なのだ」