手慣れたように刑務所の中で物を売り歩いてるラクダ。秘密の仕入れルートを持っており、ビールや『プレイワールド』のような貴重品まで難なく手に入る。セールストークには自信があったようだが、自分には通用しなかったようだ…
トニーの青年時代は平穏そのものだった。普通の家に生まれ、普通の学校に通い、普通の彼女と付き合い、そして普通の理由で別れた。そのままつまらない一生を過ごすはずだったトニーだが、一通の電話がすべてを変えてしまった。
それは、高校時代に海外へ引っ越して以来、何年も連絡を取っていなかった幼馴染からの電話だった。引っ越し先の国が政策転換でタバコと酒の税率を大幅に下げたため、タバコと酒の値段が暴落し、一緒に一山当てないかとトニーに持ちかけた。品物は大量に確保してあるし、買い手もすでに見つかっている。あとは商品をトニーのいる国に運んでくるだけでいい。もちろん、税関を通らずにだ。幸い、国境には広大な砂漠が広がっており、ほぼ見張りのいない箇所もある。トニーに思い至ったのもそのためだ。特技などなにもないトニーだが、砂漠を通リ抜けることくらいラクダには難しくもないはずだ。
失恋したばかりだからか、それとも刺激が欲しかったからか、トニーは二日間考えた末、その提案に乗ることにした。それからトニーは数日を掛けて荷物を運んで砂漠を越えた。道中は予想通りなんのトラブルも起こらず、トニーはいとも簡単に初めての報酬を手にした。こうして、味をしめたトニーは密輸の旅を始めた。タバコからカラーテレビまでなんでも扱ううちに、トニーは自分だけの「ゴールデンロード」を開拓した。
密輸の金額が大きくなるにつれ、トニーの存在が税関でも問題視されるようになった。進路上に配置された国境警備隊の待ち伏せにあい、砂漠を出たばかりのトニーはあっけなく逮捕された。運命の悪戯か、欲をかきすぎたトニーへの罰か、この時トニーが運んでいたのはまさかの武器だった。こうしてトニーは、本来大した罪にはならないはずの密輸で、一生刑務所から出られなくなってしまった。