大柄なホッキョクグマ。刑務所にいながら、リングを忘れられずにいる元プロレスラーでもある。「アイスバーグ」というキャラクターを演じ、設定上では極北から来た氷の魔物で、凄まじい力を持っていながら暑さが苦手ということになっている。そしてその決め技はなんと……いや、よそう。今の天気は十分寒いから。
少年時代のウラジーミルは、気に入らない相手を片っ端からボコるような、手のつけようのない不良だった。学校を卒業した後、暇を持て余していた彼は様々な仕事を試したが、毎回その喧嘩っ早い性格のせいで長続きしなかった。そんなある日、ウラジーミルはまたしてもちょっとしたことで、屋外コートで喧嘩し、1対3の勝負に勝利した。その様子がちょうど通りかかったプロレスラー「クレイジーシャーク」の目に止まり、当時若かったウラジーミルを自分のクラブへ誘った。
ウラジーミルは元々暇つぶしのつもりでクラブに行ってみただけだったが、その喧嘩っ早い性格がまたしても厄介事を起こした。クラブにいたひ弱そうなダイアウルフと諍いが起こった結果、相手に完膚なきまでに叩きのめされたのである。これまで喧嘩で負けたことのなかったウラジーミルは、この時初めてレスリングの魅力を目の当たりにし、目の前で新世界の扉が開かれた。
クラブに入ったばかりの頃、ウラジーミルは毎日地獄のような訓練を受けていた。数百回の腕立て伏せ、腹筋、スクワットに加え、何時間も続く実戦訓練まであった。日が昇る前から一日が始まり、夜は痛みに耐えながら眠りに落ちる。同期で入ったメンバーたちは皆その辛さに耐えられず辞めていったが、ウラジーミルは最後まで残った。三年間の訓練の末、「クレイジーシャーク」はウラジーミルに「アイスバーグ」のあだ名を与え、リングに上がる準備ができたことを認めた。
「アイスバーグ」は初戦から驚くべき実力を示し、初戦勝利から始まり、連戦連勝したウラジーミルはチャンピオンの座を手に入れ、そして守り続けた。次々とレスリング史上の奇跡を生み出していくウラジーミルは、メディアから「極北から来た氷の魔物」と称賛された。成果を上げたウラジーミルは、ずっと自分の才能を見出してくれた「クレイジーシャーク」に感謝していた。自分を暴力の泥沼から救い出し、プロレスラーに育て上げてくれたのは彼なのだ。
だが、美しい物語は往々にして美しいままでは終わらない。「アイスバーグ」が三度目のチャンピオンを勝ち取った頃、悪い知らせが飛び込んできた。引退した「クレイジーシャーク」が娘を連れて映画を見に行った帰りに、裏通りでナイフを持った強盗に遭遇した。娘を守るために戦った「クレイジーシャーク」は急所を刺され、救助も虚しく命を落としたのだった。
恩師「クレイジーシャーク」の死に意気消沈したウラジーミルは、酒に溺れ激昂しやすくなった。その数日後、テレビ番組の出演中に、同じくゲストとして出演したボクサーは「プロレスラーなんてのはヤラセばかりで実力のない連中だ。チンピラすら倒せなかった『クレイジーシャーク』がいい例だ。あんなピエロはハニー祭りの余興にこそふさわしく、競技者だけのリングに上がる資格はない」という侮辱的な言葉を発した。その言葉にウラジーミルの怒りを爆発させ、舞台裏の控室でその「口の悪い」ヤツに「クレイジーシャーク」の弟子「アイスバーグ」の雪崩のような怒りを思い知らせてやった。
そのボクサーは自身の軽率な発言により、車椅子で余生を送ることになった。そして「アイスバーグ」ウラジーミルも、暴行罪で懲役十年の刑を言い渡され、レスリング界の新星はこうして流れ落ちた。