いつも空腹に悩まされている温厚そうなクロクマ。もうすぐ冬になるため、今は冬ごもりの準備をしている。刑務所できちんと冬眠できるのかと聞くと、意外な答えが返ってきた。すなわち「独房」だ。この「夢への旅」を勝ち取るには、刑務官をぶん殴るだけでいいらしい。そんな「ラッキーボーイ」になるのは、いったい誰だろうか?
ヘンリーはそれほど歳を食ってないが、刑務所に入ったのは成年したばかりの頃だったから、服役時間はかなり長いほうだ。中学時代のヘンリーには、3つの趣味があった。食べることと寝ること以外に、バスケも好きだった。他のクマ小僧たちと同じように、ヘンリーにも好きなチームと選手がいて、トレーディングカード1枚のために、仲間たちと喧嘩することもあった。
ある日の昼食後、ヘンリーは悪友であるヒグマのダニーから、ある秘密を教えてもらった。クラスの「富豪」タスマニアデビルのチャーリーがSSR『リバティ・セーバーズ』のチャンピオンサインカードを持っているという。なんでもそのカードがあれば、チームのトレーニングを一回見学できるだそうだ。
リバティ・セーバーズ…!それはヘンリーが幼い頃から憧れてきたチームで、歴代メンバーのデータは全て頭の中に入ってるくらいだ。間近で彼らの試合を観るのが長年の夢だったが、家計が苦しいため、ずっとそのチャンスに恵まれなかった。だからその話を聞いてから、ヘンリーはずっと心をざわつかせていた。その日の放課後、ヘンリーはダニーにある大胆な計画を打ち明けた。チャーリーと家族の外出中にカードを盗もう、と。
ふたりはチャーリーの家の向こう側の街角に潜んで、2晩も待った末にようやくチャンスが巡ってきた。映画でも観に行くのか、チャーリーは家族と車で出かけていった。ヘンリーは用意していたバールでドアを開き、見張りに残った。そしてダニーは2階のチャーリーの部屋に、目当てのカードを探しに行った。5分ほど待つと、「動くな、この野郎!」という叫び声が唐突に夜の静寂を破った。その声は無論ダニーのものではなかった。
ヘンリーがこっそり2階に登ると、ダニーはチャーリーの祖父と思しき老人に銃口を向けられていた。ヘンリーの計画は予定外の人物の登場によって狂わされ、銃口を向けられたダニーも小便を漏らしていた。焦ったヘンリーは、老人を気絶させて逃げようと、手に持っていたバールで暗がりから老人に襲いかかった。反射的な行動か、あるいは運命のいたずらか、バールが命中した瞬間、銃声が轟いた…
全力の一撃ではなかったとは言え、バールで後頭部を打たれたチャーリーの祖父は、二度とベッドから起き上がれないほどの怪我を負った。それ以上の不運に見舞われたのは、ダニーだった。とっさに放たれた銃弾は、まっすぐダニーの心臓を撃ち抜いてしまった。懐に隠したトレーディングカードは鮮血に染まり、若々しい命はこの茶番とともに幕を閉じた。